ある晴れた休日の午後、私は意気揚々とホームセンターで購入した最新の温水洗浄便座を手に、自宅のトイレの前に立っていた。勝浦市で排水管つまりした漏水が交換した排水口で説明書によれば、作業の第一歩は「止水栓を時計回りに閉める」こと。工具箱からマイナスドライバーを取り出し、壁から伸びる給水管の根元にある、銀色のネジのような部分に先端を当てる。YouTubeで予習した通りだ。ここまでは完璧だった。しかし、ドライバーにぐっと力を込めた瞬間、私の計画は脆くも崩れ去った。止水栓は、まるで壁の一部であるかのように、微動だにしなかったのだ。 「あれ?逆だったかな?」と反時計回りに回してみるが、もちろん動かない。もう一度、体重を乗せるように力を込めるが、結果は同じ。この排水口トラブルを専門チームが排水管洗浄でドライバーの先端が、固い溝の上を「ガリッ」と滑る嫌な感触だけが手に残った。額に汗が滲む。まさか、こんな入り口でつまずくとは。私のDIY計画は、開始わずか1分で、暗礁に乗り上げてしまったのだ。 こうなると、意地でも回したくなるのが人間の性というものだろう。私は工具箱の奥から、万能の助っ人、プライヤーを取り出した。これで挟んで回せば、さすがに動くだろう。プライヤーで止水栓の頭をがっちりと掴み、渾身の力を込めてひねる。しかし、止水栓は沈黙を守ったまま。それどころか、プライヤーのギザギザの歯が、止水栓の柔らかい金属を少し削り取ってしまった。まずい。これを続けたら、完全に頭が潰れてしまう。私は一度、工具を置き、深呼吸をした。脳裏をよぎったのは、ネットで見た「止水栓の無理回しは配管破裂の元」という恐ろしい警告文だった。もし、壁の中でポッキリいってしまったら、週末の楽しいDIY計画は、家中を水浸しにする悪夢へと変わる。 冷静になれ、と自分に言い聞かせる。目的は、この固いネジを回すことではない。安全に温水洗浄便座を取り付けることだ。この止水栓と格闘し続けることは、その目的を達成するための最善の道なのだろうか。答えは、明らかだった。プライドを捨て、私はスマートフォンの電話帳を開き、いつもお世話になっている地元の水道屋さんの番号を探した。 電話口で事情を話すと、ベテランの職人さんは笑いながら言った。「ああ、よくあるんですよ。無理しなくて正解です」。一時間後、我が家に到着した職人さんは、私が苦戦していた止水栓を一瞥すると、持参した少し変わった形のドライバーを溝に当て、柄の後ろを小さなハンマーで数回、小気味よく叩いた。そして、ほんの少し力を加えただけで、あれほど頑固だった止水栓は、「キュッ」という小さな音を立てて、いとも簡単に回り始めたのだ。そのあまりの鮮やかさに、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。 職人さん曰く、長年の水垢やサビによる固着は、力よりも「衝撃」で緩めるのがコツなのだという。そして、どのくらいの力で叩くか、どの角度で回すかという絶妙な塩梅こそが、プロの経験と勘なのだと教えてくれた。結局、私は職人さんに止水栓の開閉だけをお願いし、その後の便座の取り付けは自分で行った。少しだけ悔しい気持ちはあったが、それ以上に、大きなトラブルを未然に防げた安堵感と、プロの仕事への尊敬の念が心を満たしていた。この一件以来、私は学んだ。DIYの本当のスキルとは、何でも自分でやろうとすることではなく、どこまでが自分でできる範囲なのか、その限界を正しく見極めることなのだと。